館長 木を語る

館長 木を語る

22.木の香りとは?

 木の香りとは、「木のあぶら」です。木に含まれる油分が香りのもととなっている、と材木屋のおやじ(館長の私)は説明しております。

 木は、若いうちは自身に含まれる匂い成分が少ないので香りも薄く、それほど強い木の香りはありません。年老いて木そのものに含まれる油分が増えると香りも増し、より強いものへと進化します。木は樹齢を重ねた分、成熟して木としての価値も上がっていると言えます。
 木に含まれる油が多ければ香りも強くなり、同時に木としても粘り強く、虫に食われにくく、腐りにくくなる、と館長の私(材木屋のおやじ)はこれまで材木業を営んで来た経験からそう感じております。逆に若い木は油が少ないので粘りもなく、虫にも食われやすく、腐りやすい……、と同じく経験上そう感じております。
 材木屋の立場から言うなら「木の価値は樹齢」であり、樹齢が高い木の方が香りも強い傾向にあるのです。

同じ太さの材でも樹齢により育ち方が違います。左は成長が早く若いもの、右は成長がゆっくりで樹齢の高いものです。当然材木としての価値は右の方が高いです。

 少々話はズレますが、では樹齢の若い木はダメかと言うとそうではなく、樹齢の若い木にも良い所があります。それは環境の為に貢献してくれると言う点です。人間も木も同じですが若いうちはたくさんご飯を食べて育ちます。木の場合は二酸化炭素を吸収して光合成をして成長しますので、二酸化炭素の吸収量が年寄りの木より若い木の方が多いのです。
 つまり、例えて言うなら人が若いうちは働いて社会に貢献をするように、木は若いうちは二酸化炭素を吸収する事で自然環境の為に貢献してくれる、と館長の私(材木屋のおやじ)は考えております。
 人間には「定年」がありある程度の年齢になると仕事を辞めて第二の人生、悠々自適の暮らしになります。そして人はさまざまな経験を積んで「古老」として昔から敬われてきた歴史が有ります。
 木の場合はある程度成長して二酸化炭素の吸収量が少なくなり、環境に貢献しなくなってからが人間で言う「定年」つまり伐り時となり、「優秀な材木」として第二の生を送る事になります。材木としては「年寄りの木」の方が良い、つまり樹齢の高い木の方が良いのです。これは歴史的建造物に高樹齢の木が多く使われている事からも明らかです。
 樹齢の高い、つまり年寄りの木は全て切らずに残しておいた方が良い、と錯覚する方も多いですが、特に植林された人工林の場合は、ある程度の樹齢に達したら木を伐採してまた新しい苗を植えて育てる事が良いのです。このサイクルを維持する事で環境の為にもなりますし、優良な材木を産出する事にもつながります。これからの循環型社会の為にも、こうした適切な伐採と植樹、森林の維持管理は大切な事なのです。

木を伐採する様子。伐採直後のヒノキ(埼玉県産)。

 ところで、「木の香り」と一口に言っても、木によって香りは違いますし、今お話しした様に樹齢によっても香りの濃淡が違います。そして、これは木力館(きりょくかん)にご来館頂いたお客様に実際に香りを嗅いで体験して頂いている事なのですが、例えば同じ樹齢のヒノキの香りを嗅いだとしても捉え方、表現の仕方は千差万別です。ただただ「表現が難しい」と困惑する人もいれば「ヒノキ風呂の匂いだ!」と言う人、小さいお子さんなどは「おじいちゃんおばあちゃんの家の匂いがする」と言う子もいます。
 もちろん、表現のどれが正しくどれが間違いだとか言うのはナンセンスです。皆様は今までの体験や経験をもとに言葉で表現されているのであえて言うなら「全て正解」が答えです。しかし、例えばヒノキ風呂に入った事の無い人に「ヒノキ風呂の香り」と言っても全然分からない様に、やはり言葉だけで木の香りを表現するのは非常に難しいのです。誰もが知っていてすぐに思い浮かべられる香りではないのです。
 ですから木力館では皆様に実際に自分の鼻で木の香りを体感して頂き、「これがヒノキの香り」「これは杉の香り」などと体験して頂いております。

 さて木の香り(杉やヒノキ、青森ヒバ等)にはさまざまな効果があり、とりわけ精神をリラックスさせる効果や集中力を高める効果がある事が大学等の実験で明らかになっております。木をふんだんに使った家は木の香りでリラックスされ、健康的で快適な住まいとなります。それにはさきにお話しした通り、なるべく樹齢の高い天然乾燥(自然乾燥とも言います)の木を使うのが良いです。高温で人工乾燥した木は木の油が抜け落ちて木本来の香りも失われてしまうのであまり好ましくありません。本来であれば天然乾燥の材木を使うのが良い、と言うのはそうした理由からです。
 また住まい(構造躯体)そのものだけにとどまらず、住まいの内装に天然乾燥材を使うのも良い事ですし、木の精油やアロマオイル、入浴剤など、木の香りそのものを楽しむグッズも多くあります。これらは木の香りが「癒し」として認知されている証拠です。
 この他、実際の森林にハイキング等で出掛ける「森林浴」も盛んに行われております。森林浴が何故良いかと言うと、森林では多くの木々が二酸化炭素を吸収し、きれいでおいしい空気を出してくれます。その空気の良さを森に入った人々がご自身の五感で感じて、思わず深呼吸したくなる、と言う訳です。

過去に実施した伐採見学ツアーの様子。森の空気感を満喫されておりました。

 木はただ生やしてそのまま放置するのではなく、適切に使い、そして植えて育てる事で人の体にも心にもプラスの働きをしてくれるものです。木は有効に使いたいものですね。