館長 木を語る

館長 木を語る

17.「木の価値」とは? ~森林から考える環境問題~

さて、今回は「木の価値」とは何か、と言うことについてお話ししようかと思います。

皆様は、木の価値は何かと聞かれて、どんな答えを思い浮かべますか? 木目の美しさ? 香りの良さ? 幹が太い? それぞれイメージされるかと思います。

館長の私(材木屋のおやじ)は、木の価値とは「樹齢」だとお話ししております。木を「良材(良い材木)」として使うには、樹齢の若い木よりも、樹齢の高い年老いた木の方が良いのです。
木はある程度樹齢が高いものでないと、良い材にはなりません。材木の世界では、樹齢20~30年程度ではまだまだ若く、少なくとも80~100年以上経過したものが「良い材」として使えるのです。100~200年以上のものはとても良い材になります。

樹齢の若い杉材(左側、樹齢30年程度)と、高樹齢の杉材(右側、樹齢100年以上)の柱材サンプル。

木は年月を経ると、木の「脂(あぶら)」を多く含むようになります。この木の脂(あぶら)こそ、木の香りのもとであり、あぶらがあるからこそ木の粘りや強さが出てきて、腐りにくくなり、強い木になる。と館長の私(材木屋のおやじ)は考えます。
(木の樹種にもよりますが)樹齢20~30年程度の若い木は、まだ成長過程の段階で脂(あぶら)が乗っていないので、材木として使うにはあまり適さないのです。逆に、樹齢100年以上、200年程のものになると、あぶらよし、粘りよし、香りよしといった、「良い材木」として使う事ができます。
また、樹齢が高いほど、木目も良くなります。人間と同じく、長い年月を生きて来た木にはそれぞれの年輪が出来、木目として製材した時に表れてきます。この木目の良さもまた、木の樹齢によるものと言えましょう。

その証拠に、歴史ある古い木造のお寺や神社、古民家などをご覧になってください。構造躯体(骨組み)には、樹齢の高い、良い材が使われている事がほとんどです。
「樹齢100年の木は、材木にすると100年もつ」との言い伝えもありますが、使用環境が良かったりメンテナンスがしっかりしていれば100年以上長持ちします。木とは、そういう素材なのです。

では若い木は全く価値がないのか……と言うと、そんなことはありません。若い木は環境に貢献してくれるのです。
例えて言うなら、人間でも若い人はご飯をいっぱい食べてたくましく大きく成長するのと同じく、若い木は陽の光をたっぷり浴びて、たくさんの二酸化炭素を吸収し、光合成をして立派に成長していきます。
若い木の方が、年老いた木よりも二酸化炭素の吸収量が多いのです。ですから昨今環境問題のひとつに「二酸化炭素削減」が出てくるなかでは、若い木を多く育てていく方が、環境には良いのです。木も樹齢の若いうちは、環境に貢献してくれる大切なものなのです。
そして樹齢が高くなると、人間と同じく食欲も次第になくなり、二酸化炭素吸収量も減ってきます。若い木に比べて、環境にはあまり貢献しなくなってきます。しかし先にお話しした通り、木の脂(あぶら)を多く含むようになり、ここでようやく、優れた材として使えるようになるのです。

森林の大切さ、あなたは考えた事がありますか?(画像はイメージです)。

歴史を振り返ってみれば、昔は魚でもリンゴでも酒瓶でも、箱等の梱包材には「木」が使われてきました。梱包材に限らず、生活に必要な道具の多くは木製でした。ところが今はプラスチックをはじめとする化学物質が多く使われているように感じます。これは、環境汚染の原因のひとつになっているのでは、という懸念があります。
木、とりわけ無垢材は化学物質と違い、「素材」として環境を汚染する事が無いと思います。

人間はもちろん、地球上のあらゆる生き物の為にも、環境は大切です。そこで、環境にやさしい素材として、今一度木の魅力を再発見して頂ければと願います。

また、さまざまな機会でお話ししておりますが、日本は世界でも有数の森林大国です。日本は森林が多いからこそ水と空気がきれいでおいしい、と館長の私(材木屋のおやじ)は考え、お話ししております。
日本人の多くが水と空気のありがたさを実感していない現状ですが、いざ水と空気が無かったら人間は生きていけません。日本の水と空気がおいしいのも、森林のおかげ、と言う訳です。

しかし、現代の日本では採算の面で林業が廃れてきており、山林が荒れてきています。大変に由々しき事態です。資金的な面はもちろんのこと、森林の大切さ、ありがたさを、森林が殆ど無い都市部の人にも知ってもらう為にも、「森林環境税」という新しい税制が出来たのではと館長の私(材木屋のおやじ)は思います。
森林環境税で集められた税金が適切に使われること、それにより日本の森林が活性化することを願います。森林の整備はもちろん、森林に関わる人材の育成や、森林・国産材の啓発活動など、出来ることは多いはずです。

話は戻りますが、若い木を育て、ある程度の樹齢になったら伐採して何かの用材として使い、伐採した後にはまた新しく木の苗を植えて育てる。このサイクルを繰り返すことで、森林の活性化、地域林業の振興、そして国産材の使用といった、循環型の社会を目指すことができます。
木は持続可能な循環型社会にふさわしい優れた素材を生み出す、まさに「宝物」と言えましょう。