館長 木を語る

館長 木を語る

対談 岡野健×大槻忠男(第4回)

対談の4回目、いよいよ最終回をお届けする。
東京大学名誉教授「NPO木材・合板博物館」館長 岡野健氏 と 木の博物館「木力館」館長 大槻忠男氏の二人の対談は「国産材のイメージと実情、今後の展望」と言うテーマで進められた。
(司会:大槻文兵)

第四回は、風土と木材の関係を、それぞれの専門家からの立場として語る。
(前回の第三回目はこちらからどうぞ)

 

意見を交わす岡野名誉教授と大槻館長

--お時間も少なくなって来ましたが、最後に、日本の材木の約8割が外材主流になっている中で、日本の風土と木材の関係について、お話しして頂けますか?

岡野「よく『ここに家を建てるなら、ここで育った木を使えばいい』と仰る人が居ますよね。でも、私はそうは思わないんです。日本という国は、地球儀を回してみればわかるけど、非常に雨が多くて温度もあって、木が育つのに適した所に有ります。だから木の種類は非常に多いです。世界には2万種類くらいの木が有りますが、そのうちの1割弱が日本にあるんです。その中で私達の先輩は色々な木を使って家を建てたはずなんです。エゾマツも、トドマツも、モミも、そこら辺に生えてた木を全部使ってね。それで、最後に残した『これでいこう』と決めたのが、杉、桧なんです。この杉と桧は、松のグループと違って、植物学的にはひとつのグループと今いわれているんです。松の仲間っていうのはエゾマツ、トドマツ、カラマツ、トガサワラ、あとはいわゆるマツですよね、それぞれ属が違います。世界の木造建築では、大抵この5つの属の木で家を建てています。でも日本では駄目なんです。腐っちゃうんですよ。松は粘りがあって強くて、板にしたら良い材ですが、長持ちさせる家には向いてない。杉桧にはかなわない。だから杉桧を選べたってのは、日本の素晴らしいとこなんです。木の種類からいえば、例えばアマゾンなんかは、もっと日本より広がりがあって、色んな種類がある。世界一軽い木もあれば世界一重い木もあって、同じ場所に生えているんです。そのふたつは全然性質が違うから、そこで生えた木を使えば良いかなんてのは、あきらかにおかしい論理ですね。勿論その気持ちは解るんですけど、植物は、人類の歴史が500万年かそこらに対して、その二桁くらい多く歴史があるんです。その時代には国なんて無かった。国や国境なんてものは人間が勝手につくったもので、昔にそんなものは無い。それぞれ色々な気候に適した植物がある訳です。でもその中で家の建材に適するかどうかってのは人間が決めた。家を建てては壊れ、腐れ、色んな事をやって、選びに選び抜かれたのが、今の日本の樹種、杉、桧だったんだと思います。それをですよ、今は計算上『木は同じ』と言うだけの事で、簡単に捨ててしまった。あれはもう大馬鹿だと思うね」

大槻「なるほど。ただ先生、今、例えばどこの国の木でも、樹木じゃなくても同じだって言う論法に対して、私はちょっと議論がある。やはり木は、植物はみんなそうですけど、気候風土によって育まれているんですね」

岡野「そうですね」

大槻「ですから今、杉桧は日本の国土の中でどこにでも育っているものではない」

岡野「北海道に杉はほとんど無いですね」

大槻「桧も無いです。桧、杉は殆ど北海道には無い。しかし、エゾマツ、トドマツ、カラマツは有る。逆にエゾマツ、トドマツは本州には無い。と言う事は、それはやはり気候風土による部分も有るのかと。端的に言うと、湿気に強い弱いと言う事ではないでしょうか。例えば腐りやすいというのは湿度が多い少ないと言う問題で。北海道には入梅が無いですよね。入梅が無いところに、エゾマツ、トドマツは、ホワイトウッドと同じ様な性質ですから、そうするとやはり、気候風土と言う事になる。だからそこで育ったものが、そこの気候で切られても、その気候で使われると言う事が、やはり一番合うのかなと私は思うのです」

岡野「それは確かに」

大槻「山も、産地によって桧のあるところと、杉のあるところが有るでしょう?」

岡野「では、桧で北海道で家を建てたらどうなると思いますか?」

大槻「湿度が多いところで育ったものを湿度が少ないところで使われるんですから、材が乾燥するので強いと思う。湿度の少ないところで育ったものを湿度があるところで使われる事が弱いんだろうと私は思います。この辺りは解釈の差ですね(笑) カラマツも、北海道と信州にしか無いでしょう」

岡野「カラマツは北海道に植林で持っていきましたよね。そこで育ってますよね」

大槻「でも他では育たないんですよ。信州以外には、本州にはカラマツは無い。九州だとかには無い」

岡野「うまく育たなかったんでしょうね」

大槻「そうなんですね。だからそれが気候風土と言う事なんです」

岡野「ただ、植物を育てる事とその材を使う事は違うと思いますね。例えば木で作った製品が、どこの国では駄目だと言う事はないでしょう?」

大槻「国の違いではなくて気候が違うと言う事だと思います」

岡野「なるほど。そうすると、問題は、私達が家を建てる時に使う柱、あるいは土台、梁、桁、そういう材料が存在する温度と湿度、その範囲等が『この木はもう駄目だ』『この木は大丈夫だ』と言う事かどうかって事ですね。実は、木の物理学の世界では、そう言う事は無いんですよ。日本で育った木を越冬隊が南極へ持って行って家を造ったんですが、あれは木じゃないと駄目なんですね。そして、その木はこういう理由で木じゃないと駄目かと言う事は、ちゃんと説明が出来るんです。木の成分とか耐久性と言うのは、木が育った場所や温度湿度の幅ではなく、その木が何科のどういう属の木か、と言う事の方が大きく関わって来るんですね。ですから、ホワイトウッド、トウヒの類は世界中に非常に広く分布しているけど、そこで使えば耐久性が有るかと言われれば、駄目ですよね。ドイツトウヒは筑波などでも育ってるけど、非常に耐久性が無いです。腐ってしまう。それはもう、その木が持っている宿命ですね。どこで育ったかではなく、その木が耐久性に必要なもの、成分を持っていないんですよ。だけど、例えば世界に500か600台位しかないといわれているあの高価なバイオリン(ストラディバリウス)は、みんなホワイトウッドです。でもあれが腐ったなんて話聞いた事はない。そんな馬鹿な事する人はいない。つまり木をどういう環境下に置くか、そういう点で、大槻館長が仰る事はある意味では合ってるんだけど、それ程センシティブじゃないんだなあ。例えば北海道では、構造材にエゾマツ、トドマツを使いますよね。『アオキ』と言って使ってましたよね。だけど、それを例えば本州の関東なんかで使ったらたちまち腐る。それは、ここで育ったから育ってなかったからではなくて、あの木が持っている微生物、生物劣化に対する特性なんですね。どこに持って行ったって、腐りやすいんですよ」

大槻「湿度の無いところで育ったものを湿度のあるところで使わると言う事の差はどうです?」

岡野「北海道で育った木は湿度が低いとか、本州の木は湿度が高いと言う事であれば、確かにそう言えるんだけど、実際にはそう言う事は無いんですね。杉桧は、何処へ持って行っても杉桧であって、その場所の温度と湿度に対応した水分の量(含水率)になる訳です。それはホワイトウッドでも同じです。違うのは、そこに腐朽菌の胞子が飛んできて発芽したときに、その発芽した菌を殺すか殺さないか、そういう成分を持っているか持ってないかと言う事です。ホワイトウッドは持っていません。持ってない理由は、特定の場所で育ったからという理由ではないんですよ。さっき言ったアマゾンでは、腐れやすい木もあるし腐りにくい木もある。同時に生えているんです。同じところに生えている木でも片方は腐りやすい。もう蹴飛ばしたら折れちゃうような柔らかい木、これは腐りやすい。でも片方はリグナムバイタとかイペとか、蹴飛ばしたらこっちの足が折れちゃうくらい強い。だから腐らない。ですから、育った場所ではなく植物の種類、植物の種類によって持っている成分が違うと言う事です」

大槻「そうすると、例えば育たないって事はどうなりますか?」

岡野「そこは難しいな(笑)」

大槻「(笑)」

岡野「木は様々に進化して育っていますが、大昔を辿ればもとは皆一緒です。ある場所で育つ木と育たない木が出てきて、それが、生活組織の材にどのくらい影響しているかと言うと、そこが問題なんですね。その生活組織と言うのは、基本的には分子構造のCとHとOをばらしてみると、変わらないんですね。密度も変わらないんですよ。変わるのは、細胞の壁の厚さだけ。で、それこそがまた耐久性に関わって来るのですが、例えばバルサと言う木と、リグナムバイタと言う木は同じところに生えてる訳ですよ。片方はあっという間に腐るし、片方は決して腐らない」

大槻「それは確かに木の質ですね。木の性質の場合もあると。では木の生え方については(笑)」

岡野「(笑) 私が今まで色々経験(研究)したり本で読んだりした範囲では、その木が育った環境で使えば長持ちして、別のところで使うと長持ちしないって言う、そういう理屈は成り立たないですね」

大槻「だけど例えば、法隆寺を復元した棟梁の西岡さんでしたか? 例えばあの方の」

岡野「木を使う方角を言うんですよね」

大槻「そうですね。例えば、南で育ったものを南側で使うとか、という理屈もありますね。そういうとそれは関係ないと言う事ですか?」

岡野「私はあれはね、思い込みだと思う」

大槻「思い込み(笑)」

岡野「あの位の偉い人が言えば、まあ文句は言わないけど、科学的ではないと思いますね」

大槻「ただ、やはり幾らか理屈は有ると思うんですね。私も木が好きだから、色々な事をこう言っているんですけれども(笑)」

岡野「うんうん(笑) だからね、本当に木を好きで、身近に木が有って、日頃から接している人が言う言葉にはね、重みがあるんですよ。理屈ばっかりじゃないですよね。だから、そこの部分は確かにある。だけども私はね、やっぱり学者なんだなあ。自分で納得出来ないと」

大槻「なるほど」

岡野「偉い人が言ったからとか、材木屋さんが言ったからっていうんじゃ、なかなか信じられないですね」

大槻「いや、私らは科学的な根拠は無いですから(笑) 木材を扱ってきた経験ですから」

岡野「(笑) でもね、そう言う事は、突き詰めると必ず根拠が見つかるんですね」

大槻「なるほど」

岡野「そういう事を突き詰めるのが、私ら学者の役目ですね。そういうのを突き詰めて行くと『ああ、こういう使い方がいいな』とか、『これは駄目だな』ってのがわかってくる訳ですよ」

--貴重なお時間ありがとうございました。

以上で対談は終了である。
「学術研究の専門家」と「現場のプロ」、それぞれの立場による意見の相違は有ったが木に対する強い思いと志が両者には溢れていた。勿論、この対談の内容について異論や反論の有る方もおられるとは思うが、この対談がきっかけとなり、そうした様々な意見や議論を活発化させ、よりよい将来の為の”一里塚”となれば幸いである。
(以上、司会・総括:大槻文兵)