館長 木を語る

館長 木を語る

対談 岡野健×大槻忠男(第2回)

対談の2回目をお届けする。
東京大学名誉教授「NPO木材・合板博物館」館長 岡野健氏 と 木の博物館「木力館」館長 大槻忠男氏の二人の対談は「国産材のイメージと実情、今後の展望」と言うテーマで進められた。
(司会:大槻文兵)

第二回は、集成と無垢の違いから、構造躯体へと話が進む。
(前回の第一回目はこちらからどうぞ)

 

岡野名誉教授

岡野 「しかしそれは、先程の法隆寺の根継ぎと一緒で、継いであったら、異物が混ざってあったら、と定義したら、法隆寺の根継ぎは、無垢ではなくなるんですよ。法隆寺が世界遺産で大論争になったのはまさにそこなんですね。あれは新しいのをどんどん継ぎ足しているからちっとも古くない、つまり世界遺産にはあたらない、と言う議論が外国人の間であったんですよ」

大槻「でも、法隆寺の構造は全部根継ぎしている訳じゃないでしょう?」

岡野「ほとんど根継ぎしていますよ。その理由は、束石の上に木を立てる事にあります。束石は大きくて重い。つまり熱容量が大きいから、温度が変わりにくいんですね。夏に暖かい風が吹いてきたら、柄石の表面に結露します。表面に結露した水は何処へ行くかと言うと、みんな木が吸います。あの夏の結露こそ木を腐らせているんです。冬の結露なんて全然怖くない。夏なんです。腐朽菌の繁殖の条件は、温度と水分ですから。但し、普通の木が本来持っている水分は、発芽の条件を全然満たさないので、腐る筈が無いんです。それでも木が腐るのは、この結露した水があるからです。この水が何処から来るかといえば、要するに重くて大きいもの。それは金属板であったり、コンクリートであったり。現代の一般的な工法は基礎を大きくして高くしてベタ基礎と繋げて鉄筋を入れて、土台を緊結するでしょう。あれ、木にとっていい事ひとつも無いですね。構造躯体が動かないという点では良いですが、木材の耐朽性を考えると、あのやり方は駄目なんです。昔の建て方の方が風通しが良くてよっぽど腐りにくかった」

大槻「それともうひとつ。木と鉄とは、相性は悪いですよね?」

岡野「駄目ですね。相性が合わない理由は何かと言うと、結露するからです」

大槻「素材それぞれの硬さが違う事も有りますね。木は弾力性があるけど、金属は硬い。現在、木造住宅では金物をたくさん使って建物を留めている。一般的にはあれが、ものすごく丈夫に見える」

岡野「確かに、建てた直後は丈夫ですけどね」

大槻「ただ、例えば地震などの力で構造躯体にねじれなどが来た場合は、木は金物に強度で全部負けちゃうから、構造躯体、木と金物の接合部がばらばらになっちゃうのではないかと思うのです」

岡野「そういうケースは確かにありますね」

大槻「木と木同士なら、粘りあって持つけども、鉄は粘りが無いから、強いけど脆いんですよ」

岡野「あれの結合は、要するに、構造躯体を動かさないって事なんですよ。だから上の木の部分は、ちっとも動かない。外から力が加わって構造躯体がねじれても上は動かない、っていう理屈ですからね」

大槻「その理屈は昔の理屈と違う、金物主体の建築工法になってしまったからだと思います。昔は木と木を組み合わせて、木の楔や込み栓、長ホゾなど、色々な加工方法で、全体が粘りあえる建物を作ってきた。それが現在の建築基準法では、全部金物に置き換えられ、法律で『金物を使用しなさい』となっている。これはどう思います?」

岡野「その点については、過渡的なものだと思います。それは、こう言っちゃ悪いんだけど、木の事を知らない専門家が、机上の計算だけで、木を金物で止めて試験をします。勿論、試験の時は、強い数値は出ますよ。しかし、試験した後の事は考えていない。恐らく後の事がこれから出てきます。10年、20年経って『ああ、木を金物で止めちゃいけない』という事がわかるんですよ」

大槻「私もそう思いますね」

岡野「その時が必ず来ると思いますね。その時に、その家のローンが全部済んでいればいいんですけど、ローンは最長35年ですからね。家のローンがまだ残ってるのに、金物のところで全部腐ってきたらどうします?」

大槻「家のローンは35年ですけども、建築基準法で保証を義務付けてるのは10年、って言うのはどう思いますか? 10年きりしか保証を義務付けない住宅を作れって事ではないでしょうか。また、家の寿命は25年というデータが出てるのに35年のローンを貸してる。その辺はどうでしょう」

岡野「そういう点では、色々矛盾有りますね。但し私は、誰が悪いとか言ってもしょうがないと思うのです。人間は『ここがまずかった』と、段々と直して行く訳です。例えば昔の住宅が良かったかと言えば、やっぱり建て付けは悪いし、隙間風も有る。私の場合なんか昔は色々厚着して、こたつに入って冬を過ごしたもんです」

大槻「私はほっかむりして寝た事もあるし、雪が吹き込んで来た事も有った。但し、家の事を考えると、長持ちするには、隙間風は必要だと、それが健康だと思うのです」

岡野「(笑) それは、一部哲学になって来るのですが」

大槻「(笑)」

岡野「家の気密性は非常に問題ですよね。人が健康を保つのにどのくらいの換気量が必要なのかと。これは日本人が、高気密住宅で換気回数『n=0.01』なんて事をやったけど、この数値だと4日に1回しか空気を入れ替えない事に相当する。こりゃ阿呆みたいなもんでね、だから0.5になったんですよ。私達も馬鹿じゃないから、色々試行錯誤して、具合が悪かったら直していくしかないんですね。ですから私は金物についても、必ず見直されると思います」

大槻「私もそう思います」

岡野「あと、腐れにくくする目的で、薬剤で処理しようとするでしょう。それがまたいいかどうか問題ですよね」

大槻「そうですね」

 

第3回はこちらからどうぞ。