館長 木を語る

館長 木を語る

対談 岡野健×大槻忠男(第1回)

国産の木材に対する一般のイメージと実情はなかなか明確にされない。
そこで、木のエキスパートである 東京大学名誉教授「NPO木材・合板博物館」館長 岡野健氏 と、木の博物館「木力館」館長 大槻忠男氏の二人に、「国産材のイメージと実情、今後の展望」と言うテーマで語ってもらった。

同じ木材のプロフェッショナルでも、”学術研究の専門家”と”現場の専門家”では
どの程度の見解の違い、そして共通点が有るのか注目したい。
(司会:大槻文兵)

この対談は全四回に分けて、その模様をお伝えする。
第一回は、無垢材と集成材、その用途と定義について。

岡野 健 岡野 健
昭和13年千葉県生まれ。
昭和40年東京大学大学院農学系研究科修了。
東京大学教授を退官後、(財)日本木材総合情報センター 「木のなんでも相談室」室長。
現在、NPO法人「木材・合板博物館」館長(理事)、
東京大学名誉教授、農学博士。
大槻 忠男
昭和12年宮城県生まれ。
昭和30年より材木業を営む傍ら 「自然素材の家」を目指して住宅事業部を展開。
同時期に岩槻市議会議員を4期。
平成14年埼玉県「100年の家づくりプラン」
検討会委員。
平成15年「埼玉県産木材住宅促進センター」理事長。
平成18年から木の博物館「木力館」館長。
大槻 忠男

 

--まずは自然素材・無垢材と集成材の比較対照についてお話しを伺いたいのですが。

岡野 「無垢材と集成材の違いとは、無垢の柱と集成材の柱や、無垢の梁と集成材の梁、そういう違いだと思いますね。その説明を求められる時、私はいつもこんな風に言います。『この集成材はJAS規格の構造用集成材です』と。例えばブロックを接着剤で貼って天板にした造作用集成材は除外します。あくまでも構造メンバー、柱、梁などとしての集成材です。対象となる集成材は挽き板を貼った構造用集成材です。薄い板=ラミナは板目板や追柾や柾目板ですが、これらをランダムに選んで少なくとも5枚は貼る訳ですね。そうすると貼リあがった材はどっちの方向が板目でどっちの方向が柾目だということが無くなる。これを異方性と言いますが、この異方性の無い事が集成材の大きな特徴ですね。一方、無垢は、原木からの一丁取りですよね。円周方向(接線方向)と半径方向の収縮率の違いが非常に大きいから割れる訳です。ここで問題なのが、集成材で板の接着が理屈通りきちんと出来ているかどうかという事ですね。普通、無垢材と集成材といったときには、集成材は完璧に接着されている事が前提ですが、技術的に難しい接着剤を使う時は問題が出てきます。ですからその前提が、本当に前提として良いかどうかと言う問題があります。ラミナは乾燥が容易なので、安定性から言ったらやっぱり集成材の方が安定している。その理由はさっき言った異方性をなくしているのと、質の均一化が図られている点にあります。しかし、自分の家を建てる場合にどちらを選ぶか、好き嫌いでいえば、私は無垢ですね」

大槻「ただ”無垢材”と”集成材”の表現と言うのは、一般的に言われている表現としてはまちまちなんです。例えば、今、先生が言われている板ですが、板でも厚いものと薄いものなど色々ありますね。それを、ある程度の一固体に合わせたものを無垢材と言う表現をしている。例えば建材メーカーでも、集成材を”無垢材”と表現しています」

岡野「ああ、そう言う意味ですか(笑)」

大槻「ええ。一般的なユーザーは、例えば”無垢”と言うものは、集成材のかたちをしたものを”無垢材”という見方はしません。無垢材という話になると、受け止め方や言う事が全然違って来ます。例えば窓枠用に”無垢”と言われている用材で、実際は集成材を使われた。つまり集成材は無垢材かと言う論争になっている部分が有ると思うのです。無垢材と集成材について私の表現からすると、『他のものとくっつけあったものじゃないものが無垢』、という事になる。これからはその点ではっきりした表現が必要なのではないかと思いますね」

対談に臨む岡野名誉教授(左)と大槻館長

岡野「成る程。ただ難しい点としては、例えば法隆寺の柱は根継ぎしていますよね。下の方が腐るから他の桧を持ってきて取り替えているでしょう? 他の木をくっつけてる訳ですよね。ではあれは根継ぎしているから無垢じゃないかと言うと、やっぱり無垢ですよね?」

大槻「無垢です。根継ぎする材も本物の無垢ですから。集成材そのものを根継ぎしているものではないですから。それはやはり、無垢材同士がくっつきあった、例えるなら梁と梁がくっつきあったのと同じことです」

岡野「『集成材を無垢』と言う人達の気持ちは、恐らくそこから来ているんじゃないでしょうか。『ひとつひとつのラミナーやブロックは無垢だ』と。『無垢を張り合わせたんだから無垢だ』と、こういう理屈ですね。それについては、どっちがどうとは言えないですね。これは約束だと思います。全木連に木材表示推進協議会という組織があって、まさに今の話に出た『この柱は無垢か』『この床板は無垢か』と言う問題を扱っています。フローリングの中で単層フローリングというのがあって、これは無垢ですが、縦継ぎをしている。場合によっては巾ハギもしています。でも、単層フローリングと言う定義は厚さ方向に層がない。幅方向にはありますが。結果的に単層フローリングを無垢と言うかどうかという話になってくる。私の見解は、複合フローリング、要するに合板の上に化粧単板を貼った場合、化粧単板は木ですから『プリントじゃない』『紙ではない』と言う意味では本物なんです」

大槻「しかし今の先生の仰った定義からすると、元々ベニヤも木ですね。ベニヤも元は無垢材だった訳でしょう。それを例えば、接着で合わせたものを無垢と言うかとなると、今の先生の理屈では無垢になってしまう」

岡野「仰る通り(笑)。そうなんですよね。但し、フローリングのJASでは、複合と単層に分けています。ベニヤ合板を無垢だと言う人は一人も居ませんよね」

大槻「そういう人は一人もいませんね(笑)」

岡野「理屈を言っていくと、今言った通りなんです」

大槻「同じなんですよ。厚いか薄いかの、張り合わせるかの違いで」

 

第2回はこちらからどうぞ。